【連載】オーディション管理システム開発#1~導入・課題定義編~

オーディションの風景と「#1 導入・課題定義編」の文字皆さま、こんにちは。ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)システム部門のじんです。ソニーミュージックグループでは音楽アーティストや俳優、モデル、クリエイターほか、若い才能を見つけ出すためのオーディションを行っており、私は2025年より運用しているオーディション管理システム「SpotU(スポットユー)」の開発に携わっております。

本連載では、全3回にわたってオーディション管理システム開発の経緯や、開発に際して工夫した点や苦労した点、そして今後の展望についてお話いたします。 まずは、第1回ということで、導入・課題定義編と題してこの新システムの開発に至った経緯と目的をご紹介いたします。

はじめに : ソニーミュージックグループでのオーディション

近年、音楽のアーティストに限らずさまざまなジャンルで、オーディション番組をきっかけにデビューし、大きな成功を収める新人が増えています。また、こうした審査の過程が番組として放映されることで、オーディション業務は一般の視聴者にも身近な存在になりました。

ソニーミュージックグループでは、SD(Star Development)と呼ばれる新人発掘・育成セクションがオーディション運営業務の中心を担っています。音楽アーティスト、俳優、クリエイター、モデル、タレントなど、多様な才能との出会いを目指し、ジャンルは時代の潮流とともに広がり続けています。扱うIP(Intellectual Property : 知的財産のことであり、知的活動によって生み出されたアイデア・創作物のこと)が多岐にわたる当グループにおいて、オーディションはビジネスの原点とも言える重要な業務の1つです。

新システム開発の背景と課題

ここからは、新たなオーディション管理システムを開発するに至った背景と目的を紹介します。まず、そもそもオーディションはどのようなプロセスでどんな業務が行われているのでしょうか。SDの運営するオーディションは大きく7つのフェーズに分けることができます。

【オーディションのプロセス】
  ① 企画・設計:目的定義/ターゲット設計/審査フロー設計・体制構築
  ② 募集・告知:募集要項作成/告知・宣伝
  ③ 一次審査:書類・動画審査
  ④ 二次審査以降:対面・オンライン審査
  ⑤ 最終審査
  ⑥ 合格・契約・クロージング:合格連絡/契約・同意プロセス/不合格者対応
  ⑦ オーディション後の業務

従来はオーディションのWeb応募を受け付けるためのシステム(以下、旧システム)が使用されており、この旧システムは一次審査(③)のみを対象としていました。一次応募情報や通過ステータスはシステム上で管理できていたものの、二次審査の通過者リスト作成、対面審査のタイムテーブル作成、通過連絡や次審査案内の送付といった多くの業務は、システム外で手作業に頼っていました。さらに、審査用の資料も紙で印刷されている状況でした。

その結果、大規模オーディションでは膨大なアナログ作業と紙の消費が発生し、コストや環境面での課題が顕在化していました。 また、旧システムを利用してオーディション業務を進めている中で、SDのスタッフが利用する管理画面にも使いづらさがあり、改善要望も寄せられていました。

私たちが整理した問題点は以下の3点です。
 ・カバー範囲の狭いシステムに依存し、非効率な手作業が多いこと
 ・SDスタッフ向け管理画面の使い勝手に課題があり、改善が求められていたこと
 ・紙資料の印刷が多く、コスト・環境面で無駄が多かったこと

SDからこれらの問題を解決したいという要望をもらっただけでなく、私たちシステムチームとしても、オーディション管理システムが企業ブランド価値に直結するシステムであるという判断から、安全で効率的な運用基盤の整備をしていくべきだと考えました。

新システム開発の目的と進め方

①開発の目的と検討事項

今回のプロジェクトを進めるにあたり、旧システムで対応していた業務範囲について「応募者のマイページを作り、運営側とメッセージでやり取りしたい」「応募者を運営者個人のお気に入りリストに登録できるようにしたい」といった機能追加の要望が寄せられていました。前の段落で記述したとおり、対応していなかった業務範囲についても、新システムのスコープに含めていく必要がありました。

これらを実現するためには、従来よりも大幅に広い範囲をシステムでカバーするべく、新システムでは単に既存業務を置き換えるのではなく、現状の課題を改善しながら新しい業務フローを再構築していく必要がありました。 加えて、個人情報保護の観点から近年の法規制の変化スピードに対応するため、法令対応およびセキュリティ要件について改めて再整理する必要がありました。 既存の運用業務に対して見直しを行うとともに、新規システム開発に伴い追加で検討すべき項目として、法令対応・セキュリティ要件に関する検討事項については以下のような内容を整理しました。

■法令対応に関する検討事項

  • SDとして対応すべき運用業務
  • 国内・海外諸地域で、何歳以下は親権者同意が必要か
  • どのような形式・タイミングで各種同意を取得すべきか
  • 個人情報に関する問い合わせをどのように受け付けるか(窓口・フローの設計)
  • システムに組み込むべき法令対応の要件
  • 応募データの削除期限の設計
  • 削除対象の範囲(どこまで削除するか)
  • 規約に対する同意ボタンの形式(オプトイン形式か)
  • 同意撤回を行うための導線の設計
  • 利用規約・プライバシーポリシーなどの配置場所

■セキュリティ要件に関する検討事項

  • 認証・認可(アクセス制御)
  • 通信の安全確保
  • データの保護
  • 操作ログ・監査ログ
  • データのライフサイクル管理(削除・保管)
  • 脆弱性対策
  • システム管理者のセキュリティ

今回のプロジェクトの検討が進み、システムがカバーする範囲を大きく広げられる見通しが立つと、SDからは、これまで部門内に蓄積されてきたオーディション運営の知見(例えば、大規模オーディションの効率的な進め方、審査の割り振りの仕方、事前通知の工夫、審査表の作り方など)も新システムに反映してほしいという期待が寄せられるようになりました。

②要求の定義

新システムの検討を進めるにあたり、業務効率化と法令・セキュリティ対応の両立を図りながら、応募者にとっても使いやすい仕組みを整えていく方針が固まりました。 まずは、現場へのヒアリングを行い、どのようなシステムが必要なのかを一つずつ整理していきました。

  ・業務フロー整理
最初に着手したのは、現行業務の全体像を把握することです。旧システムを運用する中で把握できていた内容を洗い出しつつ、SDスタッフがまとめていた「大規模オーディションの運営手順書」を参照し、システム外で行われている作業も含めて業務フローを作成しました。作成した業務フローは随時SDスタッフに確認し、実態に合うまで細かく修正を重ねてブラッシュアップしていきました。
  ・リニューアル要望の整理
次に、今回のリニューアルで追加したい機能や改善したい操作性について、SDから希望をリストアップしてもらい、要望を体系的に整理しました。 オーディションの運営現場からの具体的な声をすくい上げることで、何を優先して改善すべきかが明確になっていきました。
  ・リニューアル案の検討・提示
整理した業務フローとSDからの要望を基に、リニューアル案の検討を進めました。従来システムには搭載されていなかった以下の要素を中心に、システム構造を大きく見直す必要がありました。
  ・ 応募者向けのマイページ機能
  ・審査員も利用できる応募者詳細画面(1次以降の審査も一元管理)
  ・審査日程の割り振り、評価入力、次審査への反映、結果通知など、運営業務を支援する管理機能
まずはページ構成や大枠の設計についてSDスタッフの理解とイメージを合わせた上で、各ページや機能ごとに AsIs/ToBe(現状とあるべき姿) を整理し、リニューアル案としてまとめていきました。
③開発準備

新システムの方針が固まった後は、SME全体のシステムとして必要となる要件やスケジュール感も踏まえながら、外部開発会社への提案依頼(RFP)を行いました。複数社からの提案内容を比較検討し、その中から最適なパートナーを選定して、具体的開発を進めていく流れとなりました。

体制

システム開発においてはチーム作りも大切です。そこでここでは、新しいオーディション管理システムを作り上げたプロジェクト体制についてご紹介します。本システムでは、オーナーとなるユーザー部門(SD)に加え、開発支援やプロジェクト進行を担うシステム部門が参画し、外部の開発ベンダーと協業する体制を組みました。このような体制は、SME内の事業部門で使用されるシステムの開発プロジェクトのほとんどで組まれています。

  • SD(ユーザー部門/プロジェクトオーナー):業務要望の整理、意思決定、現場導入の窓口
  • システムチーム:業務要件定義の支援、システム要件の定義、進捗・タスク等プロジェクトの全体管理、社内各部門調整
  • 開発ベンダー:要件定義・設計/製造・テスト・リリースの実行

この体制の中で私はシステムチームの一員として、ユーザー部門(SD)と開発ベンダーの間に入り、システム要件の整理や開発サポート、週次定例での進捗確認や、課題管理ツールでタスクの状況を整理していました。とりわけ、要件の整理と意思決定の流れを滞らせないための段取りづくりに注力しました。 また、SpotUの開発ではソニーミュージックグループ内の各種専門部門と密に連携し、以下の作業についてアドバイザリーとして参加してもらいました。

  • 法令対応、契約・同意プロセスの整備
  • セキュリティ方針と運用の確認
  • 海外展開に向けた仕様調整と運用設計

これらの部門の知見を取り込みながら、仕様の妥当性と拡張性を確保しました。

プロジェクトに関わったSD・システム・各種専門部門のアドバイザリーも含めて、SME社内から約20名と開発ベンダーといった体制で新しいオーディション管理システムを作りあげていきました。

おわりに

第1回では、旧システムが抱えていた課題、新システムの開発背景と目的、そしてプロジェクト体制について概観しました。 SpotU は、単なるシステム刷新ではなく、SD の運営力をより発揮できる環境を整えるための取り組みでもあります。よりスムーズで安心できるオーディション運営を実現することが私たちの目標です。 次回は、実際の機能設計で工夫したポイントや、運用面で意識したこと、導入によって得られた効果についてご紹介します。引き続きお読みいただければ幸いです。