データ分析でA&Rを支える ~アナリティクス部の業務紹介~

タブレットでグラフを見るビジネスパーソン

皆さん、こんにちは。ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッドのふくろうです。

私は新卒でアナリティクス部という部署に配属となり、今年で2年目になります。音楽に関わる仕事をしたいと思いこの会社に入社しましたが、アナリティクス部とは何をする部署なのか、最初はよくわかりませんでした。

そこで今回は、アナリティクス部がどのような業務を行っているのかを紹介したいと思います。音楽業界に興味がある方には、ぜひ読んで頂けたらと思います。

アナリティクス部とは

皆さんもご存じのように、ここ数年で音楽業界ではデジタル化が急速に進んでいます。音楽の聴き方はCDなどからストリーミングへと移行し、テレビ・ラジオなどのメディアが主戦場だったアーティストのプロモーションはX(旧Twitter)、Instagram、YouTube、TikTokなどに広がり、これまで以上に多くの要素を考えなければならなくなりました。

音楽業界では、A&R(アーティスト&レパートリー)と呼ばれる人たちが、日々担当アーティストのマーケティング施策を考えプロモーションを行っていますが、デジタル化が進む中でA&Rが抱える悩み・疑問も増えています。

アナリティクス部は、データ分析を通じてA&Rが抱えている問題を解決し、プロモーションをより効果的に行うサポートをすることを大きな目的の一つとする部署です(ちなみに、私は文系学部出身でデータ分析などについて学んでいたわけではありません)。A&Rが抱える問題はさまざまで、問題の種類に応じて、どのようなデータを集め、どのような分析をするのかは異なります。

その一部について、これから紹介できればと思います。

ストリーミング分析でリスナー像を可視化

現在の音楽マーケットは、Apple MusicやSpotifyをはじめとしたストリーミングサービス(Digital Service Provider = DSP)を通じて音楽が再生される形が主流で、A&Rは担当アーティストの再生数を増やすことを重要な目標としています。

私たちは各種DSPのデータを、再生数推移、リスナーの性年代割合、国・地域別割合、トラフィックソース、再生元プレイリストなどさまざまな角度から可視化・分析しています。

5アーティストのSpotify再生数トラフィックソース内訳(実数・割合)

上図は、ある5つのアーティストのSpotifyでの再生を、トラフィックソース別に色分けして示したものです。(左列は実数、右列は割合)

トラフィックソースとは、collection(マイライブラリ)、search(検索)、others_playlist(プレイリスト)など、どこのページから楽曲が再生されたかを示すものですが、その構成比はアーティストや楽曲ごとに異なるので、比較することで示唆を得ることができます。

上図の例でいうと、Artist③はArtist④と比べて総再生数は若干多いですが、collectionの再生数はArtist④よりも少なくなっています。このことから、楽曲は再生しているがライブラリに保存はしていない≒アーティストの継続的なリスナー・ファンにまでは至っていない人が多いと推測することができるので、楽曲認知からファンにするための施策を考えることがArtist③には有効かもしれません。

YouTube分析で動画のクオリティをアップ

YouTubeはMVを公開するだけでなく、ファンが楽しむコンテンツを公開したり、コミュニティ投稿を通じてファンとのコミュニケーションを図ったり、ショート動画で多くの人への接触を増やしたりと、多様な用途で活用されている重要なプラットフォームです。

ストリーミングと同様の再生数推移、性年代割合、トラフィックソースなどの観点に加え、効果的なサムネイル、投稿頻度、伸びやすいショート動画、いいねやコメントなどのエンゲージメントが高いコミュニティ投稿などさまざまな観点からデータを可視化・分析しています。

YouTubeのデータは、YouTube StudioやYouTube APIを利用して取得・分析しています(YouTube Analytics APIの使い方については、ぜひこちらの記事をご覧ください)。

あるYouTubeチャンネルのショート動画 長さ別視聴維持率(横軸:動画の長さを1とした時の相対的時間)

上図は、あるYouTubeチャンネルが投稿したショート動画の、動画の長さで分類した視聴維持率です。

~20秒の動画では50%の視聴者が全体の9割まで視聴維持していますが、41~50秒の動画では50%の視聴者が全体の3割(15秒前後)までしか見ていないことがわかります。

このようなデータをまとめることで、ショート動画を作る際の参考となっています。

SNS分析でプロモーション戦略を最適化

アーティストのプロモーション活動において、X(旧Twitter)やInstagram、TikTokなどのSNSを活用することの重要性が増しています。

SNSはそれぞれ性質が異なりますが、代表的なSNSであるInstagramでは、フォロワー数推移、エンゲージメント・インプレッション・再生数が高い投稿、フォロワーの属性や傾向などについて分析しています。Instagramから取得できるデータはそれほど多くはないですが、ストリーミングやYouTubeのデータと比較することで示唆が得られることもあります。

あるアーティストのInstagram/YouTube/Apple Music性年代割合

上図は、あるアーティストのInstagramフォロワー、YouTube視聴者、YouTube視聴者(国内のみ)、Apple Musicリスナーの性年代割合を比較したものです。

プラットフォームごとに傾向が異なり、Apple Musicでのリスナーは男性が過半数を占め25-34歳が3分の1を占めていますが、Instagramフォロワーは女性が7割で24歳以下が47%と大きく様相が異なります。プラットフォームごとに傾向が異なるということは、プラットフォームごとに戦略を変えることで、より効果的なプロモーションを行えるかもしれません。

アーティストが狙っていきたいファン層を明確にするためにも、各SNSを含めさまざまなプラットフォームのデータを見てみることが重要です。

ソーシャルリスニングでファンの声をチェック

これまで紹介した例は定量的な分析が主でしたが、定性的な分析も欠かせません。YouTubeコメントやX(旧Twitter)投稿など、ファンの生の声を収集するソーシャルリスニングも重要な分析の1つです。

アーティストや楽曲についてのコメント・投稿を収集して分析することで、ファンがアーティスト・楽曲に魅力を感じているポイントや、逆に不満に感じるポイントなどをリサーチして、次の活動やプロモーションの参考にすることができます。ファンの声をチェックしておくことはA&Rにとって重要なことで、それを可視化・分析することもアナリティクス部の業務のひとつです。

最後に

この記事では、アナリティクス部の業務内容の一部を簡単に紹介しました。今回紹介したのはあくまで一例であり、実際の業務内容や分析事例はケースバイケースで多岐に渡ります。

分析を行う上では、数字を読み解いたりツールを使いこなすスキルが必要になりますが、A&Rとのコミュニケーションも非常に重要です。アーティストにはそれぞれさまざまな事情や今後目指していきたいアーティスト像、それに沿って考えられたブランディングやプロモーションプランがあります。そのようなことを考慮せずにデータだけを見ていくと、実態とは乖離した示唆を得られない分析になってしまいかねません。(データだけを見る客観性が必要な場合ももちろんありますが……)A&Rとのコミュニケーションを通じて、どのようなデータを集めて分析をするのかを考えることが、分析の最初の大事なステップとなります。

また別の記事で、具体的な分析事例などについてご紹介できればと思います。

それでは、またお会いしましょう。