みなさん、こんにちは。ソニー・ミュージックエンタテインメントのふくろうです。
前回の記事では、私が所属するアナリティクス部の業務を簡単に紹介しました。
効果的なアーティストプロモーションを実現するためにさまざまな観点からデータ分析を行うのがアナリティクス部の業務ですが、今回はデータ分析を行う上で重要だと感じる点についてご紹介できればと思います。
どの数字を伸ばすべきか?
アーティストのプロモーションを担うA&R(アーティスト&レパートリー)はアーティストのファンを増やすことを目標にしていますが、「ファンを増やす」とは具体的にどの数字を増やすことを指すのでしょうか?
アーティストの人気を示す指標は多様です。ストリーミングサービスでの再生数、Music Videoの再生数、CD売上枚数、各種チャート、各種SNSのフォロワー数、YouTubeチャンネル登録者数、ライブ動員数...... もちろんどの数字でも伸ばせるに越したことはありませんし、相互作用的にいろいろな数字が伸びていく部分もあります。その上で、クリエイティブの性質やアーティストが置かれている状況、得意・不得意、トレンド、投入できるリソースなどを考慮して注力するものを見極めることが私たちの仕事になります。
アーティストによる特性の違い
図1はA~Fの6アーティストの各種SNSとSpotify・YouTubeのフォロワー数(登録者数)を比較したものですが、アーティストによってどこにフォロワーが多くいるのかが異なる様子が見てとれます。
XとYouTubeではDが最も多くのフォロワーを抱えていますがInstagramやTikTokは少なく、ショート動画などで若者にリーチすることで新しい層を開拓できそうです。AはInstagram、TikTok、Facebookのフォロワーは最も多いですがSpotifyフォロワー数は少なく、SNSからSpotifyへの導線に注力することが有効かもしれません。逆にAやBはSpotifyのフォロワー数は2番目に多いですがSNSは全体的にフォロワー数が少なく、SNSに注力することで新規ファンを獲得する余地が十分にあるといえるでしょう。
強みを伸ばすか、弱みを補うかはそれぞれの考え方があると思いますが、このように比較してみることでアーティストの強み・弱みを整理することができます。
フォロワーを増やすための分析
どこに注力するかを意思決定したうえで、データを分析することでより効果的にフォロワーを増やすための示唆を得ることができます。
たとえばXでは、アナリティクス画面で過去の投稿のインプレッション・エンゲージメント(いいねやリポストなどの投稿へのアクション)の数値を一覧で見ることができます。csvファイルをダウンロードすると、プロフィール画面への遷移数やリンクのクリック数など詳細なデータも見ることができるので、どのような投稿が効果的なのかを分析することができるでしょう。
下図はあるアカウントのユーザープロフィールクリック数上位10投稿とそのインプレッション数を表したグラフです。投稿を見てアカウントのフォローに至るにはユーザープロフィールのクリックを間に挟む必要があるので、ユーザープロフィールクリック数を指標としています。この図を見ると、インプレッションが高い投稿が必ずしもプロフィールクリック数が多いわけではないことがわかるので、①や⑥の投稿からフォロワーを増やすヒントが得られそうです。
InstagramやTikTokではフォロワーや視聴者の性別・年代・地域などのデータを見ることもできます。どのような人が自分の投稿を見ているかを確認することは、投稿内容を考える上で大きなヒントになります(InstagramとTikTokでは、インサイトを見るために設定が必要になります)。
最後に
“ファンを増やす”という大きな目標からどの数字を伸ばすのかにブレイクダウンし、それに伴ったデータ分析を行うことの重要性について今回はご紹介しました。音楽ビジネスに限らずすべてのビジネスにおいて共通する考え方ではありますが、ファンを増やすためにやるべきことをデータを根拠にして明確にすることがプロモーション施策を行う上では非常に重要です。データ分析を通じてプロモーションをサポートすることがアナリティクス部の仕事ですが、「どの数字を伸ばすべきか」「その数字を伸ばすために何をやるべきか」の部分をデータ分析から支えるのが私たちの仕事だということもできるかもしれません。
それではまたお会いしましょう。