皆さん、こんにちは。ソニー・ミュージックレーベルズの、ぎんと申します。
私は洋楽レーベルでSNS運用やコンテンツの作成、広告配信などデジタルに関わるマーケティング全般を行う部署と、ソニー・ミュージックマーケティングでデータの分析や調査などを行うアナリティクス部を兼務しています。レーベル業務ではSNSやアーティストのライブやイベントに足を運び、お客様やファンの方と直接接触する一方、データ分析ではストリーミングサービスやSNSのデータなどを扱っています。
昨今、マーケティングを考える際に「脱感覚」といったワードをよく目にすることが多くなってきましたが、エンタテインメント領域のマーケティングを考える上で大事なことは何か、「現場感覚」と「データ」の両側面に触れて感じたことの一部を今回のブログでご紹介したいと思います。
「現場感覚」と「データ」どちらが大事?
冒頭に書かせて頂いた通り「脱感覚」というワードをマーケティングのコンサルティングやセミナーなどで目にしたり耳にしたりしますが、皆さまは「感覚」と「データ」どちらが大事だと思いますか? 一見すると対立する概念のように思えるかもしれません。しかし、実際にはこれらは相補的であり、最適な意思決定のためには両方が必要です。それぞれのアプローチがどのように私たちの決定を形作るのかを簡単にご紹介します。
ライブやイベントに足を運んで得られるもの
コロナ禍以降、YouTubeを始めとする動画ストリーミングサービスはもちろん、さまざまなサービスが生み出され日本国内でも配信を通してその場に行かなくてもライブを楽しむことができるようになりました。しかし、ライブの熱気やアーティストのパフォーマンス、ステージ演出、開演までの会場内での行動、握手会などでのお客様の反応やファッションや身につけている物などは直接現場に足を運ばないと完全に感じ取ることができず、データで導きだすことはなかなか難しいと考えています。また、データや分析だけでは捉えきれないインスピレーションや感覚が、新しいアイデアや革新的な解決策を生み出す鍵となることがあるので、マーケターにとってもこの体験は大きな意味を持つことになります。体験~創発ができるのはソニー・ミュージックなどエンターテイメントを扱う会社ならではであり、醍醐味でもありますね。
感覚のズレをデータで測る
一方で感覚や体験は重要であるのですが、感覚に寄りすぎると間違った思い込みをしてしまうことがあります。
こちらの表は、あるフェスに出演した各アーティストについてXにポストされた口コミ量の数値になります。実際のフェス現場では「C」のアーティストが一番盛り上がっていたと感じましたが、X上では「A」についてのポストが最も多く、ポジティブ率も高いことが分かりました。
このズレは「自分が好きなアーティスト(及びジャンル)だから」「自社のアーティストだから」などバイアスがかかったことにより生まれます。 この様に感覚だけになってしまうと俯瞰で物事を見たり比較したりすることができず、重要な事象を見落としてしまう可能性があるため現場感覚のズレをデータを利用して確認することが必要です。
現場でデータを集める
現場を体験しながらデータを集められる手法の一つとして来場者アンケートがあります。ストリーミングサービスやCDを聴いて、さらにライブに足を運んでくださる方を"コアファン"と定義することがしばしばあるのですが、このコアファンの声は非常に貴重なデータとなります。
こちらはある新人アーティストの来場者アンケートで収集した年代性別と楽曲の視聴頻度をクロス集計した図です。視聴頻度では熱心さやアーティストに対する興味の深さが分かり、それを年代性別毎に分けることでセグメント比較が可能です。ストリーミングデータからも同じようなデータを取得することは可能ですが、実際ライブに足を運んでくださったコアなお客様のデータであり、また会場やお客様の雰囲気を直接感じ取った上で収集することでファンベースの理解度の深さが増し、より効果的なプロモーション戦略の策定に役立つものとなっています。
最後に
現場感覚とデータはどちらも欠かせないものであり、これらの掛け合わせはエンタテインメント業界におけるマーケティング戦略では重要なものとなります。現場感覚はアーティストや作品が持つ独自の魅力や観客の反応、市場の流れを直感的に捉えることができます。一方で、データ分析は、観客の嗜好、行動パターン、市場のトレンドなど、客観的な情報を得ることができます。現場感覚によって得られる直感的な洞察はデータに裏付けられることでより信頼性が高まり、またデータだけでは捉えられない細やかなニュアンスやトレンドを補完することができます。このように、相互作用により迅速かつ柔軟なプロモーションやマーケティングはよりダイナミックで成果を上げやすいものであると感じています。
もし皆さまの中にマーケターを目指している方がいらっしゃいましたら、この記事が参考になれば幸いです。それではまたお会いしましょう。